「○○社から内定もらったよ!」
その報せは電話で聞きました。
Mは本当によく頑張っていました、頑張って自分の力で内定をもらったのです。
そのことは僕が一番よく知っていました。
でも、僕は滅茶苦茶です。
この先どうなっていくか分からない。
なんでMだけが幸せなんだ?
なんでMだけが評価され階段を上がっていく?
なんで僕を置いていく?
何の努力もしていない僕にそんなことを言える資格なんてこれっぽっちもないのです。
しかし、負の感情が頭の中を渦巻き重い重い頭痛がしたような気がしました。
そして僕は全く感情のこもっていない、抑揚のない声で言いました。
オ メ デ ト ウ
テンションの低いその声に彼女は怒りだしました。
もっと喜んでくれると思ってた。
もっと祝ってくれると思ってた、って。
その時いろいろな感情が入り交じり、Mが遠い存在になったと感じました。
葛藤
Mの就職、実家の経営が傾きだしてきた。
それらのことで、なんとなく父の仕事を手伝っていた僕はやっと将来のことを真剣に考えるようになりました。
傾いてきたから実家から離れるのか?
父一人をこのままにしておいていいのか?
そんな思いと、
このまま親子共倒れになってはいけないのではないのか?
という思いに葛藤を繰り返しました。
なにもかも中途半端に過ごしてきた自分。
このままではいけない。
自分の足でしっかりと立てるようにならなければ。
本当に悩みました。
そして僕は家業から離れることを決めました。
沈み行こうとしている船に父を残して立ち去ることを決めたのです。
自分の特性
そしてこれからどうしていくのかを考えました。
そんなの考えたところでそうそう見つかるものでもないのですが、考えました。
思いっきり中途半端だった工業高校時代。
その授業の中に好きだった科目があったのを思い出しました。
それは「製図」です。
とにかく僕は製図が得意で、通常2時間かける課題を、ひとりだけ1時間で済ましてしまうくらい得意でした。
頭の中で立体がイメージできるのでそれを図面に落としていくだけなんですが、どうやらこれは誰にでも簡単にできるものではないようなのです。
この「頭の中で立体がイメージできる」ということが、僕の特技なんだと気付きました。
設計士になろう。
高校時代、授業で習ったのは手書きの製図でしたが、これからは絶対パソコンにとって代わるはず。
「CAD(キャド)」という図面をひくソフトの資格があるのですが、参考書を買ってきて独学で取得することができました。
そして就職に不利になるであろうと考え、高校中退をカバーすべく大検(現在の高等学校卒業程度認定試験)に合格。
ここまでは順調。
あとは設計会社に就職して実践で学ぶだけ。
そんな時に人生を大きく変える出来事が起こったのです。