二十歳になったある日、突然目の前に黒い影があらわれました。
最初はゴミか虫が目に張り付いたのかと思いました。
すぐに目を洗いにいったのですがその影は消えません。
自分の体に起こったことが普通ではないことがすぐにわかりました。
眼科を受診しました。
「おそらくベーチェット病です。しかもかなりひどい」
いきなり聞いたこともない病名を告げられました。
え? なにそれ?
治り…… ますよね?
「いいえ、この病気は治りません。一生付き合っていかなければいけません。」
「しかもあなたの症状はかなり重い。しかも若い。かなりの確率で失明するおそれがあります」
え? え? なに…… それ?
頭の中を走馬燈のように駆け巡っていきました。
そのほとんどはMのことでした。
そして、頭から血の気がひいていくのを感じました。
次に気が付いたとき、僕はベッドに横になっていました。
ベーチェット病と僕とM
気が付いたらベットの上でした。
意識がなかったのは、ほんの数分のことだったようです。
診察室に備え付けられていたベットに寝かされていました。
医師が言うには「女性よりも男性のほうが繊細で、過剰に反応しやすいんですよね~」とのことでしたが、その時はそんなマメ知識なんかどうでもよくってボーッとしてました。
そこに注射器を手にもった医師が近づいてきました。
「また倒れられても困るからそのままで」
炎症を抑えるためにステロイドを注射するのだそうです。
直接・・・ 眼球に。
注射針が目の前に近づいてくる、しかし目をそらすことが許されない。いったい何の罰ゲームなのか。
注射の痛みをこらえた後には少々血が出ていました、目から。
その血が、目尻から赤い糸をひき、さながら血の涙のようでした。
それから2週間ほどで視界の濁りが晴れていき、今まで通りの見え方に戻りました。
この病気は目の中で炎症が起こり一時的に視力を失います。これがこの病気の発作です。
しかし、1~2週間もすれば炎症も治まり元通りの視界が戻ってきます。
普段は、もちろん仕事や車の運転もできます。
だから、最初の頃は 「失明する」 と言われてもいまいちピンときません。
でも、不治の病を宣告されたというのはまぎれもなく事実です。
この事実から目をそらすことなんかできません。
この先どうなるのかは分からない。
どうしていいのかも分からない。
このことを話したらMはどう思うだろう?
正直、話すのを少しためらいました。
でもありのまま、失明するかもしれないということ、全てを話したのです。
「せっかくやりたいことが見つかったのにツイてないね」と言われました。
すがるような気持ちで聞きました。
これからどうしよう・・・? って。
するとMは泣き出しました。
「そんなこと言われても私だってどうしていいか分からない!」
そう言って泣き出しました。
それからしばらくして僕はMから別れを告げられました。
実家は借金で火の車、最悪住むところがなくなる可能性もある。
不治の難病で失明するかもしれない。
大好きだったMにもフラれる。
僕は何もかも失った……
そのときは本当にそう思っていました。