プロローグ

1997年9月のある日、突然目の前に黒い影が現れました。

ゴミか虫が目に張り付いたのかと思いました。
 

すぐに目を洗いにいきました。でもその影は消えません。
 

「ヤバい…… これヤバいやつや……」
 

自分の体に起こったことが普通ではないことがすぐにわかりました。
 

最初は塊だった影は一日くらいかけてゆっくりと視界を濁らせていきました。

おそらく眼球内で出血したのでしょうね。

『絵の具』が水のなかで全体に広がっていくように、その影が視界をすべて覆いました。
 

光は感じるものの、全く何も見えなくなりました。

 

眼科を受診

すぐに町の眼科を受診しました。

薬を処方され1週間ほど様子をみるも全く改善の兆しはありません。
 

うちでは手に負えない、ということで国立京都病院を紹介されました。
 

国立病院での診察。

眼球内を見るやいなや、「いま何歳?」と質問されました。
 

二十歳です、と答える僕。
 

「若いな……」と深刻そうな声でつぶやく医師。
 

暗い部屋の中で不安な時間が流れます。
 

それからいくつかの質問をされました。
口内炎はできやすい?
足に赤い斑点ができたことは?

全てイエス。
 

「おそらくベーチェット病です。しかもかなりひどい」

いきなり聞いたこともない病名を告げられました。
 

え? なにそれ?
 

治り…… ますよね?
 

「いいえ、この病気は治りません。一生付き合っていかなければいけません。
しかもあなたの症状はかなり重い。しかも若い。かなりの確率で失明するおそれがあります」
 

え?  え?   なに…… それ?
 

よく小説などで、頭の中を走馬燈のように駆け巡ったというような表現がありますが、このときはまさにその表現がぴったりでした。いろんなものが駆け巡っていき、頭から血の気がひいていくのを感じました・・・

 

気が付いたとき、僕はベッドに横になっていました。